大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 昭和24年(控)92号 判決

被告人

関幸一

外二名

主文

被告人関幸一に対する原判決を破棄し、同被告人に対する本件公訴は、これを棄却する。

被告人金岡由培、同李昌在の本件控訴は、何れもこれを棄却する。

理由

被告人関幸一の弁護人天羽智房の控訴趣意について。

少年事件については、少年法第四十二條により、檢察官は、少年の被疑事件について、搜査を遂げた結果、犯罪の嫌疑、があるものと思料したときは、これを家庭裁判所に送致し、家庭裁判所は、同法第二十條により、刑事処分を相当と認めるときは、管轄地方裁判所に対應する檢察廳の檢察官に送致しなければならないものであつて、檢察官は、家庭裁判所から事件の送致を受けたとき公訴を提起するのが相当と認めたとき、同法第四十五條第五号により、はじめて公訴を提起し得るもので、檢察官が、家庭裁判所を経由しない少年事件につき、直に公訴を提起したときは、その公訴提起の手続は法律に違反した不適法のものとなるから、裁判所は、刑事訴訟法第三百三十八條第四号により、判決で公訴を棄却せねばならないことは、所論の通りである。よつて本件につき訴訟記録並に原判決を審査するに、原審においては被告人関幸一を昭和六年二月五日生の成人として、通常の刑事訴訟手続によつて、有罪と認定し、これに懲役一年六月の実刑を科したことが明かであるが、本件訴訟記録添附の同被告人の戸籍記載事項証明書の記載を見るに、同被告人は昭和七年二月五日生の少年であることが認められしかも右戸籍の記載が虚僞であることを認むるに足る証拠がないから、右被告人は十八歳に満たない少年であるとして、少年法に定むる手続に依つて、保護処分に附するか又は公訴を提起しなければならないものである。然るに、檢察官並に原審がこれを看過して、前記の通り手続で判決を爲したことは、違法で刑事訴訟法第三百七十九條に所謂判決に影響を及ぼす訴訟手続の法令違反があつたものと謂うことができるから、同法第三百九十七條により、原判決を破棄せねばならない。但し同法第四百條但書により、本件訴訟記録に基き直に判決することができるものと認められるから、同法第三百三十八條第四号に從い、被告人関幸一に対する本件公訴はこれを棄却する。

被告人金岡田培の弁護人近藤亮太、同寺尾元実の控訴趣意について、被告人金岡由培と併合審理された相被告人関幸一に対する公訴提起が不適法であつて、これを棄却せねばならないことは前起の通りであるが、裁判所は右のような不適法な公訴と雖、一應受理し公判手続を経て、判決により公訴を棄却しなければならないことは、刑事訴訟法第三百三十八條第四項第四十三條第一項に照し明白で右公訴の不適法なため、被告人関幸一及び相被告人等に対する公判手続そのものが当然無効となるものではない。而して本件訴訟記録を精査するも、原審公判手続が違法であつた点を認めることができないから、原審が、適法に開廷された公判期日における被告人関幸一の供述と当事者間に証拠とすることについて異議のなかつた右被告人の檢察官に対する供述調書を、被告人金岡由培の犯罪事需の証拠の一部に採用したことは、毫も違法でなく、論旨は全く理由がない。

以下省略

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例